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三人が村へと戻ったのは、一日以上経っての事だった。

村人達は、三人の無事と、問題の解決を、とても喜んだ。

そしてやはり、二人のハンターに村を救ってくれた事への礼を何か―と、考えた。

しかし、その二人のハンターもやはり「気にしないでください」と同じように返した。

と、なにかがっかりした様子の村人達を見て、

コウは「1つだけ、お聞きしたいことが」と口を開いた。



その日の夜。

コウとマークは、村人達の家で夕食をご馳走になった。

家の人間よりも量を食べるマークに、コウをはじめ、

そこにいた全員が呆れたような顔をしていたりした。

そして二人は食事の後、村人達が用意してくれた宿に戻った。

「・・・あ〜。もう、食えねぇ!」

「お前・・・ちょっとは考えろよ」

「いや・・・遠慮すんなって言われたら、そりゃあするわけには・・・」

「・・・たまに、お前が羨ましくなったりしなくもないよ」

と、そんな二人のたわいもない会話がしばらく続いたあと。

コウはベッドに横たわって、それから黙って何かを考え始めた。

マークも同じくベッドに横たわると、先程までとは違い真剣な口調でコウに話しかける。

「・・・やっぱりってーか、ここでも“あの人”の情報はなかったな」

「・・・そうだな」

「・・・・・・」

「もう、捜し始めてどれくらいになるっけかな・・・?

たまに、たまにさ・・・こんな事意味ないんじゃないかって思う事があるんだよ・・・」

「コウ・・・」

そこで、二人の会話は途切れる。



・・・コウは、“ある目的”があって大陸を旅している。

その目的というのは、“幼い頃に行方不明になった父親を捜す事”だった。

コウの父親
ラルフは、コウと同じハンターで。

その能力は高く、ハンターの世界でも5本の指に入る程の人物なのだとコウは聞いた。

また、それだけではなく人望も厚い人物であった事を、こうして旅をする中で知った。

「・・・なんで急に、いなくなっちまうんだよ。

一体、何があったっていうんだよ・・・親父・・・」



コウは、同じく幼い頃に母親を病で亡くしている。

母親の死後は妹の
シャルル、そして父親のラルフとリュカという小さな村で暮らしていた。

父親であるラルフは、幼い二人を養うために、街へと出かけ、

ハンターとして依頼を受け、それをこなし、

そうして得た報酬と、沢山の土産話を持ってコウ達のもとへ戻った。

ラルフが村を離れる期間はけして短くはなかったが、

それでもコウとシャルルは寂しくはなかった。

ラルフが戻ってくるたびにしてくれる土産話がコウはとても楽しみだったし、

それより、ラルフは自分やシャルルの為に懸命になってくれているとわかっていたから。

そして、どんなに期間が延びても、彼は必ず帰ってきてくれたから。

しかし―

ある日を境に、彼は帰ってこなくなった。

長旅でくたびれながらも、笑顔で、家の門を開けて帰ってきていた父親。

だが、コウ達がどれだけ待っても、家の扉が叩かれることはなかった。

コウはとても悲しんだ。でも、コウより幼いシャルルはもっと悲しんでいた。

―コウが15歳の頃の話である。

それから3年経ったある日、コウは一人、父親を捜す為に村を離れる決意をする。

シャルルを一人、村に残していくことに不安はあったが、

なんとしても父親を捜しだし、シャルルの下に連れて帰りたい。

自分も、父親には言いたいことが沢山ある。

こうして、コウは十数年暮らしてきた村を初めて離れた。

村を離れた後のコウは、情報が集めやすいかと考え、父親と同じハンターとなった。

そうして依頼をこなしながら大陸を回り、そして現在に至る・・・。



少しの間。二人の間には会話なく、ただ時間だけが過ぎた。

しばらくして、その流れを止めるようにコウが口を開く。

「捜し始めて2年。いなくなってもう5年だぜ・・・。

これだけ捜して見つからないってなったら、そりゃ考えるよな・・・」

「コウ・・・」

コウの言葉を横で聞くマーク。

そんな風に言うコウの表情はとても寂しげで、マークはすぐに言葉を返すことができない。



マークがコウと出会ったのは2年前で、その頃からその過去の話は、何度か聞いていた。

最初、彼の父親の名前につられてコウに近づいたマークは

コウ自身の事など何も思わなかったし、彼の話を聞いても特に何も感じはしなかったが、

長く同じ時を過ごしていくうちに、少しずつ、彼のことを理解するようになり、

その想いに共感するようになっていた。



「・・・ここまでやって諦めんのか?」

「マーク・・・」

少し時間を置いて、マークはそうコウに返した。

「見つかるって、いつかさ。つーか、故郷に残してるシャルルちゃんの為にも、連れて帰らにゃ、だろ?」

「・・・そうだな」

マークの励ましに、コウは笑って返す。

軽いように聞こえても、それはマークの真剣な想い。


コウが折れそうになると、いつもこうしてマークが支えた。

「そうだ。2年も捜したんだ。今更・・・やめて帰るなんて、な」

「そうそう。」

二人は顔を見合わせて、互いにうなずいた。そして、

「明日からも、よろしく頼むぜ。相棒?」

「おう、どんとまかせときなさいって!」

そう言って互いの拳を突き合わせた。

―そうだ、俺は絶対に、親父を捜し出して故郷へ連れて帰る。

コウはこのとき、あらためてその想いを自身の中に確認した。



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